グルーヴと空気を設計する音楽
muque(ムク)は、シティポップ、オルタナティブR&B、ロック、エレクトロニカを横断するサウンドを武器にする日本のバンド・プロジェクトだ。ジャンルに縛られないが、どの曲にも一貫しているのは「グルーヴ」と「空気のデザイン」である。彼らの音楽は、メロディで泣かせるのではなく、音の質感とリズムの流れで、リスナーの身体と気分を支配するタイプの音楽だ。
「Level up」は、そのmuqueの本質がもっとも純度高く結晶化した一曲と言える。
音楽に“入っていく”感覚
muqueの「Level up」は、再生ボタンを押した瞬間から、リスナーの身体を“動かす側”に引き込む楽曲だ。イントロが鳴っただけで、空気が変わる。感情が先に立ち上がり、理屈よりも早く、足や肩がリズムを刻み始める。その感覚は、音楽に“聴かされる”というより、音楽に“入り込む”という言い方が近い。音楽に“聴かされる”のではなく、音楽の中に“入っていく”。
だからこの曲は、歌詞を“読む”ように聴く楽曲ではない。言葉の意味を一つひとつ追いかけるよりも、リズムとビートに身を委ねることで、言葉は風景の一部になり、メロディと溶け合って、ひとつの推進力になる。
“いまの自分”を前に進めるサウンド
この曲が持つ最大の特徴は、「自分が主人公になる感覚」を、サウンドだけで成立させている点にある。ドライブで流せば、フロントガラスの向こうに広がる風景が、まるで映画のワンシーンのように見えてくる。誰かの物語ではなく、“いまの自分”のために鳴っている音楽。それが「Level up」の核心だ。
どこかLOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)を思わせる浮遊感とクールな色気を持ちながら、muqueのサウンドはより現代的で、よりグローバルな感覚を備えている。日本語で歌われていても、音の設計は完全に“世界仕様”だ。ビートの置き方、音の間の作り方、リズムの呼吸――それらは、海外のインディーR&Bやオルタナティブ・ポップと並べてもまったく引けを取らない。
以前「ブルーライト」のレビューで書いたように、muqueの音楽は“作業系のスイッチ”として機能する。それは集中するためのBGMというより、「動き出すためのBGM」だ。停滞している自分に、そっとエンジンをかけてくれる。Level upは、その作用がもっともストレートに現れた一曲だろう。
“レベルアップ”という言葉が示す通り、この曲は成長や変化を物語るというより、「変わろうとする瞬間の高揚」を音にした楽曲だ。未来を語らずとも、今この瞬間を前に押し出す。それこそが、muqueというバンドの音楽が持つ、静かだが確かな強さなのだ。


