静けさの中で重なり合う心――幾田りら「With」と映画『アナログ』が描く愛のかたち。

幾田りらの「With」は、映画『アナログ』の静けさと誠実さを、そのまま音楽に封じ込めたような一曲だ。

映画『アナログ』は、とても静謐な作品だった。派手な展開も、大きな感情の爆発もない。ただ、人と人が出会い、言葉を交わし、少しずつ距離を縮めていく。その過程を、淡々と、しかし丁寧に描いていく。
監督が北野武だと知り、正直驚いた。暴力や緊張感をまとったイメージの強い彼が、これほど純粋でひたむきな物語を描くとは思っていなかったからだ。だが、もしかするとこちらこそが彼の内面なのかもしれない。普段の風貌や言動は、照れ隠しの仮面で、本当はこんな繊細な感情を抱えている――そう思わせるほど、この映画は誠実だった。

その世界を静かに、しかし確かに彩っているのが、幾田りらの「With」である。
とにかく印象的なのは、夜明けのように澄んだイントロだ。柔らかな光が少しずつ差し込んでくるような音の立ち上がりは、これが映画の主題歌だと知らなくても、静かな朝の風景を自然と想像させる。誰かと過ごした後の、言葉にならない余韻。まだ街が目覚めきらない時間の空気。そのすべてが、音の粒として漂っている。

幾田りら自身のコメントにあるように、「With」は人と人の出会いや繋がりを見つめ直す歌だ。人はそれぞれ、出会うまでに異なる時間を生き、痛みや癒えない傷、孤独を抱えてきた。完全に理解し合うことはできない。それでも、隣に座り、背中をさすり、想像力を尽くして相手を思う。その行為そのものに、愛や絆は芽生えるのではないか――そんな問いかけが、この曲には静かに込められている。

それはまさに、『アナログ』の物語と重なる。デジタル化が進み、効率や即時性が重視される時代に、手紙や待ち合わせ、すれ違いといった「不便さ」を大切にする映画の姿勢。その人の心に直接触れられなくても、手のひらで感じ、想像し続けることの尊さが、映像と音楽の両方から伝わってくる。

陽の光や影、風の温度、水面の表情――そうした細部へのこだわりが、『アナログ』の映像と「With」の音楽を、同じ呼吸で結びつけている。派手ではない。だが、観終わったあと、聴き終わったあとに、確かな温度が残る。

「With」は、誰かと一緒にいることの意味を、静かに問い直す歌だ。そして『アナログ』という映画は、その問いに映像で応えている。
この二つが出会ったこと自体が、ひとつの美しい“アナログな奇跡”なのだと思う。