円を描くように前へ――幾田りら「サークル」がくれる軽やかな肯定感
幾田りらの「サークル」は、YOASOBIで見せる物語性の強い楽曲とは趣を異にし、よりパーソナルで、生活のリズムに自然と溶け込んでくる佇まいが印象的な一曲だ。
歌詞には「毎日を予測変換でつないでいく」「フリーズ」といった、デジタルネイティブ世代にとって身近な言葉がさりげなく織り込まれている。こうしたワードを用いた比喩表現は非常に巧みで、とりわけ「予測変換」という言葉は、この曲を読み解くうえで重要な役割を担っている。先が読めてしまう平凡な日常、その繰り返しを象徴する存在だ。だからこそ、後半に登場する「予測不能で想定外の…未来」というフレーズが際立つ。変わらないように見える日々のなかでも、気づかぬうちに人は少しずつ前へ進んでいる。その過程を「螺旋のように上って行けてる」という表現で描き出す構造が、この曲に静かな説得力を与えている。
特筆したいのは、そのテンポ感だ。仕事がはかどらないときや、気持ちがどこか停滞しているときに再生すると、自然と背中を押されるようなリズムが流れてくる。決して「頑張れ」と声高に励ますわけではない。それでも、気づけば体と気分がほんの少し前に進んでいる。日常のBGMとして心地よく機能しながら、確かなエネルギーを内包している点に、この曲のポップソングとしての強度がある。
タイトルモチーフである「サークル(円)」は、歌詞とサウンドの両面から巧みに表現されている。「Round and Roundで輪をなぞり続く」というフレーズでは、リズムとメロディが一体となり、思わず体を揺らしたくなるような高揚感が生まれる。理屈よりも先に身体が反応し、円を描くように回り続けるビートが、楽曲全体に流れるポジティブな循環性を象徴している。
その一方で、「螺旋のように上って行けているかな」という一節は、この曲に奥行きをもたらす重要なポイントだ。とりわけ語尾の「かな」が絶妙で、誰かへの問いかけなのか、自分自身への独り言なのかが曖昧なまま残されている。その曖昧さゆえに、「未来に向けて、今の自分であっているよね?」という静かな確認が、まるでリスナー一人ひとりに差し出されているように感じられる。軽快なサウンドの裏側に、不安と希望が同時に息づいていることを示す印象的なフレーズだ。
幾田りらのボーカルは、その問いを決して押し付けがましくせず、あくまで自然体で届けてくる。感情を過剰に乗せないからこそ、言葉は聴き手の心に余白を残しながら届く。その余白に、それぞれの「今」や「これから」が静かに重なっていくのだろう。
「サークル」は、単なる明るい応援歌ではない。仕事に行き詰まったときや、立ち止まりそうになったときにそっと元気をくれる一方で、「このまま進んで大丈夫かな」という小さな迷いにも寄り添ってくれる。踊りだしたくなるような軽やかさと、未来を見つめる静かな問い。その両立こそが、「サークル」を何度でも聴き返したくなる一曲にしている。



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