サビにだけ、感情を置いていく

作業中、ふと耳に入ってきた「鏡に恋して」。
気づけば曲は流れ終わっていて、手元の作業だけが、静かに前へ進んでいる。
これは“聴いてしまう音楽”ではなく、“作業を邪魔しない音楽”だ。しかも、かなり理想形だ。その意味で、自分的にはmuqueと同じにおいを感じた。ヘッドフォンやイヤホンを耳につけ、PCなどの作業に没入しているとき、集中力を高めてくれるジャンルの音楽。

「礼賛」というアーティストは、正直この曲で初めて知った。
だが一聴して分かるのは、彼らが「前に出す言葉」と「背景に溶かす言葉」を、意識的に選び分けているということだ。

この曲で耳に残るのは、やはりサビだろう。

尋常ないくらい
一生ないくらい
鏡に恋していたいのです

言っていることは、ほとんど自己愛の宣言に近い。けれど、そこにナルシシズムの重さはない。
むしろ軽やかで、かっこいいビートに合わせて体が自然に動く感覚を得られる。

それ以外のパートは、驚くほど速い。歌うスピードが速く、言葉は流れ、意味は深追いさせない。
だからこそ、サビのこのフレーズだけが、ふっと水面に浮かび上がる。

作業中に聴く音楽として、これはかなり理想的だ。歌詞を「理解」しなくていい。
でも、感情の芯だけは、ちゃんと耳に残る。

礼賛という存在

礼賛(らいさん)は、ヒップホップやポップスの文脈を背景に持ちながら、言葉遊びとリズム感を武器に活動するアーティストだそうだ。ジャンルにきっちり収まるタイプではなく、ラップ的な速度感と、J-POP的な親しみやすさを、かなり自然に行き来している。

特徴的なのは、感情を“語らない”こと。代わりに、言葉を大量に並べ、テンポで押し流す。その中で、ほんの一行だけ、核心を置いていく。

「鏡に恋して」は、まさにそのやり方がいちばんきれいに機能している曲だと思う。

自分に夢中でいる時間の肯定

「鏡に恋していたい」という言葉は、裏を返せば、他人の評価や世界のノイズから、少し距離を置きたいという願いでもある。

作業中、集中しているとき、人は一時的に“自分しか見ていない状態”になる。この曲は、その感覚を邪魔しない。むしろ、「それでいい」と、静かに肯定してくれる。

聴き終わっても、余韻は残らない。でも、作業は進んでいる。それでいいのだと思わせてくれる音楽だ。

「鏡に恋して」は、自分に夢中でいる時間を、少しだけ気持ちよくしてくれる一曲。ある意味、「仕事に恋して」の人にはもってこいの没入音楽だ。