幾田りら「タイムマシン」―終わりかけの恋に響く一曲

聴く人の心の柔らかい部分にそっと

幾田りらのソロ楽曲には一貫して、女の子が胸の奥にそっと隠している恋心が息づいている。「タイムマシン」もまた、その系譜に連なる一曲だ。透き通るような歌声は、感情を誇張することなく、むしろ削ぎ落とすことで、聴く人の心の柔らかい部分へと静かに染み込んでくる。

この楽曲が描くのは、恋の終わりに訪れる揺れ動く心だ。もう戻れないとわかっていながら、それでも「もしも」を思い描いてしまう切なさ。後悔、未練、そして相手を想う優しさが、時間の流れに逆らうことなく淡々と積み重なっていく。歌詞は決して劇的ではないが、だからこそ別れのあとに残る感情のリアルさが際立つ。

終わってしまった恋を、きちんと自分の中にしまうための歌

メロディは大きな起伏をつけず、一定のテンポで進んでいく。その音の運びは、過去へ戻るための装置というより、思い出が自然とよみがえってしまう心の動きそのものだ。サビで感情を爆発させるのではなく、胸の奥に静かな波紋を広げていく構成が、この曲の余韻を深くしている。

「タイムマシン」は、「レンズ」「スパークル」「恋空」といった楽曲と同じポジションの曲でもある。出会いのときめき、すれ違い、別れ――描かれる恋愛のシーンはそれぞれ異なるが、いずれもワンシーンを切り取った“感情の記憶”という点で共通している。恋の始まりを描く曲が光だとすれば、「タイムマシン」はその光が消えたあとの、少し冷えた空気を優しく包み込む存在だ。

幾田りらの歌声は、この曲でも“未完成さ”を残している。息遣いやわずかな揺れが、言葉にならなかった想いまで運んでくる。「タイムマシン」は過去を変えるための歌ではない。終わってしまった恋を、きちんと自分の中にしまうための歌だ。

恋が終わったあと、ふと立ち止まってしまう夜に。この曲はそっと寄り添い、同じ時間を見つめてくれる。幾田りらの「タイムマシン」は、恋心の余韻を抱えたまま前へ進むための、静かで誠実な一曲である。